しゅみの部屋

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BLへ愛をこめて③ ~愛の深み編~

※このシリーズは、「BL実写ドラマが注目を集めているのは良いことだけど、それと比較してこれまでのBL漫画や小説が軽く見られるのは違くない?」という思いから、実写化に値する素晴らしいBL(とその他のジャンル)の作品を紹介していく不定期連載です。
(詳しくはikinobi本館記事 BLへ愛をこめて~イントロダクション~にて)

今回は私が事あるごとに実写化希望!としつこく言い続けているこちら!

File3『猿喰山疑獄事件』

libre-inc.co.jp

およそBLコミックらしからぬすごいタイトル。内容も、ヘビーかつポエティックな、ARUKU(旧名義・遙々アルク)先生独特の世界観を余すところなく発揮した作品です。

ARUKU先生のデビュー作『ビター×スイート』を読んだ時の衝撃は忘れられません。幸と不幸の裏返しのような人生への深い憧憬。リアルな貧困の感触。そして、同時に思いました。
「この作家さん、壊滅的に絵が下手だ!」
と。(すみません)

現在のARUKU先生はかなり画力が向上されていますが、当初は物の大きさや距離感が歪んでいることも珍しくありませんでした。

めざましい画力アップには賞賛と尊敬の念が尽きませんが…実は、個人的には、ずっとあのままの絵でいてくれても、それはそれで好きだったなと思ったり…。
あの「歪み」も、なんともいえず良かったのです。

あらすじ

猿喰山の麓にある大きな屋敷に住む星義彦は、大財閥・星グループの御曹司。しかし屋敷の庭には、山から吹き降ろす冷たい風の影響で、一輪の花も咲かない。それはまるで、義彦の心を描写するかのように。

ある日突然やってきた庭師・鷺坂は、この庭に薔薇を咲かせてみせると約束する。少しずつ義彦の心を開いていく鷺坂だったが、彼にはある秘密があった……。

実写化してほしいポイント

・寓話のような残酷な現実

詩的で寓話的な雰囲気はARUKU先生の真骨頂のひとつですが、さらに特異なのは、そこにざらりとした現実の感覚が混ざることです。

鷺坂のセリフ「さみしいっていうのは…ひとりぼっちで心細くて心がこわれそうになることですよ 話しかけてくれる人もいなくて…世界にいらないって思われてるような気がして…」

出典:『猿喰山疑獄事件』44p

貧困や孤独を詠う詩のように、世知辛い現実を描いているのに、どこかポエジーを感じさせる描写が絶妙です。この持ち味にハマると、ARUKU作品の魅力に取り憑かれてしまうのです。

もし実写化するなら、「現実・残酷サイド」にも「寓話・詩サイド」にも偏らないで、この作風を引き継いでほしいところです。

 

・善悪と愛憎が裏返る波乱のストーリー

冷たい心の”王様”と、その心の氷を溶かす自由気ままな男…というストーリーかと思いきや、中盤でガラッと物語の見方が変わる展開に翻弄されます。

心の氷を溶かしたのは、溶かされたのは、誰だったのか。

そして莫大な金が絡む血生臭い事件。善とは、悪とは、憎しみとは、愛とは。反転するからこそ人間の悲しみと愛の深みが見えてくる。こんなドラマ、金曜夜くらいに見たい。

男のセリフ「どうしたんだいこのカエル…僕にくれるの?」こくりと頷く幼少期の鷺坂。ぽろぽろと泣き出す男「ありがとう 嬉しいよ 何十年も生きてきてこんな嬉しいものもらったのは初めてだ」鷺坂のモノローグ〈あの人がうちの金を持ち逃げして何年も経つが あの涙が本物だったのか今でも俺はわからない…〉

出典:『猿喰山疑獄事件』 101p
・衝撃のラスト

もうここに関しては何も語れません。
ラスト5ページに凝縮された衝撃は、読んで味わってもらうしかないかと。

損得だけで生きてきた人間がたどり着く、失うこと、得ること。本当の幸せとは……

実写化にあたって修正してほしいポイント

・強引な性描写、暴力描写

ARUKU先生、貧困を取り巻く現実を描くことに関しては、細部に行き渡った繊細な視点を持っているのですが、暴力に関しては解像度がぐっと下がる感じは否めません。

なんだかその辺も、90年代のドラマっぽさがあるのですが、現代に実写化する場合はやはり改めていただきたい。

強引にセックスに持ち込むような描写や、嗜める程度の理由で平手打ちするような描写は、もう少し丁寧に合意形成したり、暴力を振るわない形でお願いしたいな、と思います。

キャスティング会議

庭師の鷺坂と”王様”義彦の主演2人は、いろいろなキャスティングの組み合わせでやったらそれぞれの面白さが出そうで、舞台『スリルミー』のように何パターンも観てみたくなります。

しかしこの人こそは、ぜひ鷺坂をやってほしい!という人がいました!

Bruce Sirikornさん!

www.instagram.com

BLドラマ『Lovely Writer』では、可愛い顔で腹黒いAey役の怪演に注目が集まったBruceさん。
鷺坂役は、愛と自由を知る人物にも、影のある人物にも見える人が良いのでBruceさんはぴったりかと。
ノンケ男が「お前なら男でもいい」と言ってくるほどの美貌と魅力という点においても、Bruceさんなら説得力があります。

Bruceさんはオープンな彼氏さんがいることもあって、BLでの主演は近年あまり無いようなのですが、Aeyの亡霊になった私はいつまでも主演BLを待ち望んでおります…。

 

そして、

撮るのはやはり、Jojo Tichakorn監督で!

Jojo監督作品といえば、泥沼な人間関係!(失礼な)

そのおかしみをテンポよくポップに描くパターンも、ノワールに描くパターンもありますが、どっちもP'Jojoならではの味があります。

この作品をしっかりテーマを理解して実写化できるのは、この人を置いていないのでは…。頼むP'Jo!タイ!GMM!

 

出典:『猿喰山疑獄事件』ARUKU著・リブレ出版・2009年発行