しゅみの部屋

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BLへ愛をこめて②~カラダのフシギ編~

※このシリーズは、「BL実写ドラマが注目を集めているのは良いことだけど、それと比較してこれまでのBL漫画や小説が軽く見られるのは違くない?」という思いから、実写化に値する素晴らしいBL作品を紹介していく不定期連載です。
(詳しくは ikinobi本館記事・BLへ愛をこめて~イントロダクション~にて)

 

去年からタイのBLドラマにハマり、最近ではフィリピンや韓国・台湾・日本のものも含めて実写BLばかり見ているのですが、その中でいろいろと発見もあります。

その一つが、「男性のトップレスと、女性のトップレスのエロさに差はないんじゃないか」ということです。

この世界では、女性が上半身裸になることの方が、男性よりずっとタブー視されています。男性が上半身の服を脱ぐ映像は水泳シーンなど全年齢向けでも普通に流れますが、女性が胸をあらわにしたら、ほとんどの場合年齢制限がかかります。

しかしBLドラマでは、男性のトップレスを見て、その人に好意を持っている男性がドキドキして目をそらしてしまったり、逆に食い入るように見つめてしまったりします。
そういう表現を見ているうちに、私もだんだん男性のトップレスシーンに、何かいけないものを見てしまったような気持ちを抱くようになったのです。

そもそも、女性の”おっぱい”だけが”エッチ”だなんて、でたらめだったのでは?
女性だって男性と同じように、スポーツの後上半身裸になって汗を拭いたっていいし、男性も女性と同じように、胸を見られるのが嫌だったら嫌だと拒否していい。
男の体も女の体も、どのジェンダーの体も、等しくエロくて、等しくエロくなくて、等しくデリケートで大切なもの。そんな共通理解が広がっている世の中になったら、それってすごく生きやすいんじゃないかなあ…と。

 

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『そして続きがあるのなら』
『帰らなくてもいいのだけれど』
『そしてすべてが動き出す』

『そして続きがあるのなら』『帰らなくてもいいのだけれど』『そしてすべてが動きだす』の書影

そして続きがあるのなら|コミック|竹書房 -TAKESHOBO-

帰らなくてもいいのだけれど|コミック|竹書房 -TAKESHOBO-

そしてすべてが動きだす|コミック|竹書房 -TAKESHOBO-

私が10代の頃から愛し続けているBL漫画家、内田カヲル先生。BLに限らず入れ替わりの激しい漫画業界で、現在に至るまで20年以上描き続けてくれている貴重な作家さんです。

私が内田先生の作品に最初に衝撃を受けたのは、ひとえに筋肉でした。それまで目にしていたBL作品は、女の子のような中性的な「受」が主流だったのにも関わらず、内田作品には「攻」よりも体格の良い「受」が登場する。さらに、その筋肉隆々の「受」に対して「攻」は、「おっぱいが大きい」「ムチムチしてエロい」「可愛い」とメロメロになります。

これはBLにおける一つの革命であり発見といっても過言ではないと思います。体格が良く筋肉のしっかりついた”男らしいマッチョな体”が、男から性的に眼差される体になり得るのだという。

当然それは、ゲイ男性にとってはずっと前から自明のことだったでしょう。しかし、世の中の一般的な「カラダ」の見方として、いまだに”女性”表象のほうが”男性”表象よりも、絶対的に(相互的・相対的にではなく)エロティックで欲望をそそるものだという観念が根強くある 。それは、ヘテロ女性の性欲がどれだけ透明化・不可視化されてきたか、ということの証左でもあるでしょう。
そんな中で、女性主体の文化であるBLにおいて、20年も前に”男性的でマッチョな体”を、”可愛くエロティックな体”としてしまうところまで降ろしてきた、内田先生をはじめとする筋肉BL作家さんたちの功績は、大きいのではないでしょうか。

そして不思議なことに、それまでは「誰かを可愛がる側」にしか当てられてこなかった大きな体の男性が「誰かに可愛がられる」という表現に、シスジェンダー女性でレズビアンであるはずの私も、とても癒されたのです。

それは、誰の心にもあるマッチョイズムが慰められるような感覚だったのかもしれません。

あらすじ

漫画家とその才能に惚れ込んだ男を描く、3巻にわたるシリーズ。
麻雀漫画雑誌の編集者として仕事にやる気を見いだせない日々を送っていた坂口は、高校時代に漫画の天才と見込んだ後輩・藤代と偶然再会する。しかし藤代は、もう漫画を描くのをやめたと言い、今はコンビニのバイト生活。
何とか再びペンをとらせたい坂口と、漫画の才能に全振りで生活能力ゼロの天然ボケ藤代。この再びの出会いが、2人の運命を変えていく。

実写化してほしいポイント

胸の谷間。この作品のものすごいところとして、まずこれを語らずにはいられません。

坂口の胸元の開いた服からぱつぱつに張った胸の谷間が見えているシーン。セリフ…坂口「…お前アレか」藤代「あ…アレ?」坂口「もう オレの身体だけじゃ満足できねぇか?」頬を赤らめる藤代と「ドッキューン」の書き文字

出典:『そしてすべてが動き出す』118p

坂口は、 「受」でありながら「ヤクザみたいな人」と言われるほど目つきも態度もガラも悪いコワモテキャラ。しかしなぜかいつも胸元のざっくり空いた服を着ていて、パッツパツの胸の谷間を覗かせています。
そんな坂口に高校時代から夢中だったことを告白する藤代は、堪りかねてこんなセリフ。

「先輩はッ…ドロ●ジョ様みたいにエロかったですもん!
胸の谷間が…ッ いつも…チラチラ見えててッ」

「胸の谷間」って、一般的には女性の体における、女性性の強調された表象と考えられているものですが、その実、男性が鍛えてマッチョになると胸は大きくなり、谷間が出来るわけです。そしてそれを「抱かれたい体」としてではなく「抱きたい体」として愛でる「攻」。
うーん。言葉で説明しようとすると、パラダイムシフト起こりすぎで、ちょっとわけがわからなくなりそうですね。とにかく私は、世の中の「男のカラダ」の定義に、内田カヲル作品は少なからず変革をもたらしたと思うのです。

 

内田カヲル作品のもうひとつの魅力は、あくまで甘くて可愛いラブストーリーとして楽しめる、エンタメ作品であること。
他のBL作家に比べても、「とにかくお互いのことが大好きな2人」という設定や表現が多いのは、内田作品の一つの特徴です。
かつてボーイズラブ作品は、ただ男2人のラブシーンが見たいという欲望だけで作られた「ヤマなし・オチなし・イミなし」の「やおい」作品と呼ばれていました。

しかしカルチャーというものはさらなる可能性を探求するもの。近年のBL作品は、ストーリー性を重視し、登場人物の深い心理的葛藤や、社会的事象を盛り込んでいる作品も増えています。
そんな中、内田作品は過去から現在に至るまで、何よりもまず「甘くラブラブな男2人」と「エロ」を読者が楽しめることに主眼を置いているように見えます。しかしそれでいて、ストーリーもしっかり面白いんです。
読者の需要(欲望)も満たしつつ、物語の面白さも味わえるのは、内田カヲルマジックともいえるのではないでしょうか。

 

・そして、2人がカップルとなった後、周りのほとんどの人はその事実を知らずに話は進んでいくのですが、知らなくてもどこか「この2人は2人で一つ」と理解しているような描写があります。
この2人の絶妙な「甘々なのにバディ感」は、ぜひ実写でも再現してほしいところ。

 

・さらにこのシリーズ、エンタメとして読者に夢を見せることを叶えながら、実は 2作目『帰らなくてもいいのだけれど』では、 「親へのカミングアウト」というシビアなテーマも描いているのです。
売れっ子漫画家になったことを親に知られた藤代が、ほぼ絶縁状態だった実家に呼び出されます。坂口がパートナーであることをカミングアウトして勘当される藤代ですが、その後の坂口の行動と、坂口家の実家の人々と出会う展開が、なんとも心温まります。

自身の親を前にした坂口のセリフ「こいつと 添い遂げることにした」

出典:『帰らなくてもいいのだけれど』126p

いかにも家父長制ゴリゴリの坂口父が「世間様にどう顔向けするつもりだ!」と吠えると、他の坂口家の温かく理解の早すぎる人々がフォローして、上手くいなしてしまう展開は、ちょっとご都合主義にも映ります。しかし、そこには同性愛当事者がほっとできる優しさもあると思うのです。

 

・さらにグッときたのは、坂口の母親の表情。
坂口家に到着してすぐ、坂口の「雇い主」だと紹介された藤代に愛想よく振る舞う母。しかし、藤代が「先輩…何も言わないけど…いつも優しくて…」と話した瞬間、母の目は、単なる「息子の雇い主」ではなく「息子の理解者」を見る、深い優しいまなざしに変わります。

藤代「先輩…何も言わないけど…いつも優しくて……」「…オレ あの 出来が悪いから 先輩には甘えてばっかりで……」坂口の母、優しい表情で「…そうですか」

出典:『帰らなくてもいいのだけれど』122p

こうした細やかな表現に、私は内田先生の人間愛を感じます。坂口家の人たちはもちろん、元からセクシャルマイノリティについて詳しいわけではなさそうです。彼らは何より、坂口という人間をよく理解しているのでしょう。


社会的テーマを誠実に描くことと、読者が辛くならずにエンタメとして楽しめるものを描くこと。その絶妙なバランスは、人間のどうしようもないところや取るに足らない些細なところまでも愛する、内田先生の 精神によって成されているのかもしれません。

実写化にあたって修正してほしいポイント

・とはいえ内田カヲル作品、レーティングなしで販売されるものとしては、かなりエッチです。

BL作品のレーティングのないエロ表現問題に関しては、ゾーニングされてしまうと18禁コーナーに女性は入りにくい(セクハラや痴漢の恐れがある)という難しさがあります。
個人的には、最近では漫画本にビニール包装をつけない書店の方が少ないので、表紙は全年齢見ても問題ないものにして、しかしレーティング表記はしっかりするという対応が一番妥当なのではないかと考えています。
しかし、全書店に同じ対応を求められるかというと難しいし、レーティング表記がついた瞬間に、書店に置くことじたいを敬遠されてしまうという問題もあります。
その結果、かなり過激なエロ描写を含むBL作品の多くがレーティング・ゾーニングなしで市場に出回っている現状があります。これは「BLに問題がある」という方向ではなく、「女性がエロを楽しむことに市民権がない」という根本的な問題から検討されるべきことではないかと思います。

実写化での修正として考えるなら、直接的なエッチシーンはほぼ無くさないといけませんが、これは原作のあるタイBLドラマではほとんどすでに行われていることです。しかしエロスも売りの内田作品、『TharnType』とか『WHYRU!?』とか『MannerOfDeath』くらいのエッチさは期待したいですね!

 

・上記以外はこの作品に関しては、ちょっと坂口の暴力が漫画表現的にキツめなところか、カップルが日常の延長でエロモードになるのどうなの、的なところくらいで、ほとんど修正してほしいポイントはありません。
しかし、コミックスに同時収録されている短編にはいくつかnon-conだったり、強引に迫ってセックスに持ち込んだりする作品が入っています。
実写化にあたっての修正ポイントとは少しずれますが、これからこの作品を読もうとしている方は、そこだけちょっと注意が必要です。

キャスティング会議

以前本館の方でこの記事を書いた時には、坂口=Joss、藤代=Lukeを推していたのですが、もちろんその2人も素晴らしいのですが、その時私はまだ出会っていなかったのです…KinnPorscheというドラマ、そしてMileApoに…!


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「ヤクザみたいな人」と言われる坂口を、ほんとのマフィアを演じたMileさんがやるの、最高じゃないですか?

しかもMileさん、普段からほんとに胸元ザックリ服を着ている…

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これは開きすぎ

あとやっぱり、坂口の元同僚・湯川はPompam Nitiさんで。

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出典: 『そして続きがあるのなら』内田カヲル著・竹書房・2009年発行
『帰らなくてもいいのだけれど』内田カヲル著・竹書房・2011年発行
『そしてすべてが動き出す』内田カヲル著・竹書房・2012年発行